季題は「暖か」。春三月の季題である。歳時記の項目として眺める時はさして感じないが、いざ一句に詠もうとするととらえどころの無い季題かも知れぬ。〈暖や飴の中から桃太郎 茅舎〉などは、いかにもと感心するが、〈暖かに心にたゝみ聞く言葉 立子〉では、どこまで春の気分があるか、達人過ぎて困却。かといって〈今日よりの暖かさとはなりにけり 年尾〉では、スンナリし過ぎて不安だ。 それに比べると掲出句は、よく判る。現代的でない「厨」。北に向いたような、あまり日が射さぬような「厨」である。そこにも「午后」ともなれば周囲からの「暖か」さが伝わってきて、「ああ、春だなあ」と思えるのである。「厨辺り」の措辞が絶妙である。(本井 英)
午后となり厨辺りも暖かく 柳沢木菟(2013年7月号)
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